コーヒー茶漬け(PART 1)
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キリスト主義の大学で、寮生活をしていた。
少人数、全寮制の学園のため、食事は全員で一斉に食堂で食べる。
とてもおいしいメニューばかり。
ただし、朝食は毎日だいたい決まったメニュー。
ご飯に生卵か、もしくはトーストにチーズ、コーヒー。
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ある日、決まりきった朝食に飽きていた私は、ご飯にコーヒーをかけてみた。
悪くない。
「コーヒー茶漬け」と銘打って、しばらく続けてみた。
不気味なものを見るような周囲からの冷たい視線をものともせず、コーヒー茶漬けを楽しむ。
それにも飽きてきて、更なる刺激を求めた私は、コーヒー茶漬けに、生卵を入れてみた。
コーヒーの苦味に、ほのかな米の甘み、そして生卵のマイルドさがそれらをやさしく包み、すべてが中和され、味が、消えた。
無の、味がした。
(赤字はデンマンが強調のため。
読み易くするために改行を加えています。
写真はデンマン・ライブラリーより)
「コーヒーと米と生卵」 神奈川県 あおしゅん
250ページ 『嘘みたいな本当の話』
選者: 内田樹・高橋源一郎
2011年8月10日 第3刷発行
発行所: 株式会社イースト・プレス
デンマンさん。。。、あんさんも「コーヒー茶漬け」が好物やのォ〜?
いや。。。上のエピソードを読んだだけでオェ〜。。。と、なんだか吐き気が胃の奥の方から喉元まであがってきよったでぇ〜。。。
ほんまかいなァ〜。。。あんさんはゲテモノ趣味やさかいに「コーヒー茶漬け」がよう似合うと、わたしは思いましたでぇ〜。。。
めれちゃん。。。わては、けっこう食べ物については繊細な味覚を持っておるのやでぇ〜。 わての嗅覚と味覚は「コーヒー茶漬け」を絶対に受けつけへん。
ほんまかいなァ〜。。。
素直に信じて欲しいねん。 そやけど、関西人はけったいなものを食べよるのやなァ〜。
上のエピソードの主が関西人やと、あんさんは言わはるのォ〜?
そうやァ。
そやけど、書きはった人は神奈川県に住んではる「あおしゅん」さんという女性やおまへんかァ!
この女性は間違いなく、めれちゃんと同じように関西生まれの関西育ちやと思うでぇ〜。
どないなわけで、あんさんはそないな事を言わはるのォ〜?
あのなァ〜、わてはかつて大阪のガールフレンドの家で「ところてん」を食べたことがあったのやァ。 ところてんは、わての好物なのやがなァ〜。 ところが出てきた「ところてん」を見ると、関東で食べる「ところてん」とは似ても似つかへん。。。、なんやけったいなモノやねん。
どないに、けったいやったん?
次のような物が出てきよったのやがなァ〜。
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あんさん。。。これが関西の典型的な「ところてん」ですやん。
あのなァ〜、関東では「ところてん」はこないな黒い色をしてへんでぇ〜。。。 しかも「さくらんぼう」など絶対に入っておらんのやァ。 これではまるで「あんみつ」やんかァ〜!
あんさんは妙な関西弁を話しよるけど、実は、関西の事をよう知らへん。 そやから、「あんみつ」みたいなモノやと言うねん。 関西では黒蜜をかけて食べるのが正当な「ところてん」やでぇ〜。。。
わては、初め濃い醤油が入っているのかも知れへん、と思うたのやァ。。。それにしても醤油と「さくらんぼう」が、どう考えても結びつきよらん。 じっと見つめているだけでは埒(らち)が開(あ)かへん。 とにかく味を確かめてみようと思って一口食べたのやァ。 そのとたん、オぇ〜。。。となって、わては吐き出したくなったでぇ〜。。。甘い「ところてん」なんて、関東では絶対に考えられへん。 しかも、生まれてから甘い「ところてん」なんて食べたことも想像したこともあらへん。 関東の「ところてん」とは酢醤油で食べるものと決まってるねん。
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あらっ。。。これが関東の「ところてん」やのォ〜。。。? 涼しそうやんかァ〜!
そうやァ。。。わては、これが日本の「ところてん」やと信じ込んでおったのやがなァ〜。 これ以外の「ところてん」があるなんて予想だにつかへんかった。 関西の「ところてん」を見るまで、これが日本標準の「ところてん」やと思い込んでいたわけやァ。
それで、あんさんはビックリして吐き出してしもうたのォ〜?
あのなァ〜、そないな失礼なことができるわかないやろう!? わてはガールフレンドに家に呼ばれて、もてなされたのやがなァ〜! いくら変わり者のわてでも、ガールフレンドの家族を前にして、出されたモノを口に含んだ途端に吐き出すなんて、ようできへんかったでぇ〜。。。
それで我慢して飲み込みはったん?
そやねん。。。家族全員がわての様子をじっと見てたでぇ〜。。。 それもそのはずやァ、わては決死の覚悟で飲み込んださかいに。。。おそらく目を白黒させて震えていたと思うねん。
それは、ちょっとオーバーやんかァ。。。うふふふふふ。。。
とにかく、関西では妙なモノを食べさせられたのやァ。
あらっ。。。まだ他にも変わったモノだ出てきよったのォ〜?
そやねん。
どないな物が出てきよったん?
「朝食には何がええん?」 と聞かれたさかいに生卵やのうて玉子焼きにしてくれへん?と言うたのやァ。
あんさんのガールフレンドが作ってくれたん?
そやねん。 関東で玉子焼きと言えば次のようなモノやねん。
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関西でも、これを「玉子焼き」と言いますがなァ〜。
ところがガールフレンドが作ってくれたものは違うのやがなァ〜。
どないな物が出てきやはったん?
次のようなモノやねん。
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これは関西では「だし巻き」と言いよりますねん。 カツオのダシ汁を多く入れて、薄口の醤油で味をつけて、じんわりとしみ出るダシ汁の風味を生かして、味は薄めに、焦げ目をつけへんように焼きますねん。
確かに、関東のように砂糖をほとんど使(つこ)うてへんかったでぇ〜。 薄い味やったけれど、言われてみればカツオのダシ汁の風味が出ていてメチャうまかった。
あんさんに料理の腕前を見せたかったさかいに、ガールフレンドが手間、暇かけて作りましたのやがなァ〜。
さよかァ〜?
ガールフレンドの気持ちがこもっていましたのやでぇ〜。。。
ほんまかいなァ〜?
そやなかったら、端(はな)から手間のかかる「だし巻き」などようつくらへん。
さよかァ〜?
それで、まだ他にも変わったものが出てきよりましたん?
そやねん。 お好み焼きを食べようということになったのやァ。 関東のお好み焼きというのは次のようなモノやねん。
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あらっ。。。ずいぶんと小さいものやねぇ〜?
関東では一人一人が自分で焼くねん。 焼きあがったものに青海苔を振りかけ、紅しょうがをのせて、自分の作ったものを小皿にとって箸で食べるねん。
あらっ。。。そうやのォ〜?
ところが関西ではちゃうねん。 ガールフレンドが一人で大きなお好み焼きを作ったのやがなァ。
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わてはビックリしたでぇ〜。。。ソース、ケチャップ、カラシ、鰹節粉、青ねぎ、マヨネーズ。。。をのせて、わても含めて家族の者に切り分けるねん。 それを一人一人が箸でのうて、コテで一口サイズに切って食べるねん。 関東とは作り方も食べ方もだいぶ違(ちご)うてるのやがなァ。
そやのォ〜? わたしは知らへんかったわァ。
しかも次の晩、ガールフレンドの家族と一緒に食べた「すき焼き」も、ずいぶんと違っておったでぇ〜。 関東では材料をすべてテーブルの上に置くねん。
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あらっ。。。肉も野菜も一緒にして並べはるのォ〜?
そやねん。 醤油に砂糖、みりん酒などを加えた「割り下」に、肉と他の具材を同時に入れてグツグツ煮るねん。 ところが、関西は違(ちご)うてる。 まず、最初に肉だけを砂糖と醤油で炒(い)り焼きにして食べはる。
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そうですう。 そのあとで、残った肉と一緒に「ザク」と呼ばれる野菜類を入れて新たに味付けしていただきますねん。
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関東では基本的には肉と豆腐とシラタキとねぎ。。。それに豆腐ぐらいやねん。 そやけど関西の「ザク」は思いつくような野菜をなんやかや仰山(ぎょうさん)入れるのやがなァ〜。。。これにも、わてはビックリしたでぇ〜。。。それに、ダシの量が少(すく)のうて、火加減に気をつけへんと、すぐに焦げてしまうねん。
その焦げた香りが食欲をそそりますのやがなァ〜。
わては、その焦げた臭いを嗅ぐと食欲が減退するねん。 それになァ、その日の昼のことやけど。。。
あらっ。。。あんさんは、まだ他にも変わったものを食べはったのォ〜?
そやねん。 関東の食堂で「きつね」と言えば、薄甘く煮た油揚げのことやねん。 「たぬき」と言えば「天かす」入りのことやァ。
どうして「たぬき」が「天かす」のことやのォ〜?
「たぬき」は天ぷらや油揚げがあらへん。 つまり、具が無い、タネが無い。。。「タネぬき」が「たぬき」になまったのやがなァ。。。何も無いのでは愛想が無い。 そやから、せめて「天かす」をつけて出す。。。そないなわけで、いつしか「たぬき」が「天かす」を意味するようになったのやがなァ。 関東で「たぬきそば」と言えば「天かす」の入った蕎麦が出てくるねん。
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