美しい日本語(PART 2)
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チェーホフは2月に日露戦争がはじまったあとの明治37(1904)年7月15日(グレゴリ暦)に亡くなった。
その3日前の友人あての手紙で、日本が戦争に敗北するのを予想して、「悲しい思いにかられている」と記した。
そして死の床についたとき、ぽつんと「日本人」(単数形)と呟いたという。
夫人のクニッペルがちょっとシャンパンを口に含ませた。
するとチェーホフはドイツ語ではっきりと医師に「Ich sterbe」(死にます)といい、それから夫人の顔を見て微笑んで「長いことシャンパンを飲んでいなかったね」と語りかけ、静かに横になり、眼をつむり、そのまま永遠の眠りについた。
午前3時であった。
まるで一場の芝居をみるようであるが、日本に来たこともないチェーホフが、死の床で日本と日本人にたいして何やらの想いを吐露しているようで、すこぶる不思議ではないか。
ところが、そのナゾが中本信幸氏の『チェーホフのなかの日本』(大和書房)を読むことでスパッと解けた(ような気がする)。
明治23(1890)年の春、彼はサハリン(樺太)への長途の旅にでた、その帰り道の途中のこと。
ときは6月26日、ところは中国と国境が接しているアムール河ぞいのブラゴヴェシチェンスクである。
ここで何事かが起こった。
翌27日、チェーホフは友人の作家スヴォーリンに手紙を書いているそうな。
「……羞恥心を、日本女は独特に理解しているようなのです。
彼女はあのとき明かりを消さないし、あれやこれやを日本語でどういうのかという問いに、彼女は率直に答え……ロシア女のようにもったいぶらないし、気どらない。
たえず笑みを浮かべ、言葉少なだ。
だが、あの事にかけては絶妙な手並みを見せ、そのため女を買っているのではなくて、最高に調教された馬に乗っているような気になるのです。
事がすむと、日本女は袖から懐紙をとりだし『坊や』をつかみ、意外なことに拭いてくれます。
紙が腹にこそばゆく当たるのです。
そして、こうしたことすべてをコケティッシュに、笑いながら……」
と書き綴ってきて、最後に記すのである。
「ぼくはアムールに惚れこんでいます。
2年ほどここで暮らせたらもっけの幸いと思うのです。
美しく、広々として、自由で、暖かい。
スイスやフランスでも、このような自由を1回も味わったことはありません」
アムール河畔でのたった一夜の契り。
だが「ぼくはアムールに惚れこんでいる」とまでいう。
当時、シベリア沿海州には、日本人の“からゆきさん”が多くいたことは記録にも見えている。
その中の一人が、チェーホフに優しさと暖かさというイメージ(夢)を抱かせ、その想いがふくらみ、ついに名作『桜の園』を生ましめた。
「庭は一面真っ白だ。 …… 月光に白く光るんだ」(ガーエフ)、
「すばらしいお庭、白い花が沢山」(ラネーフスカヤ)、
こうした日本の桜の純白の美しさを教えたのは、実に、その言葉少なな日本女であった。
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(注: 赤字はデンマンが強調。
読み易くするために改行を加えています。
写真はデンマン・ライブラリーより)
237−239ページ
『ぶらり日本史散策』
著者: 半藤一利
2010年4月15日 第1版発行
発行所: 株式会社 文藝春秋
つまり、チェーホフがアムール河ぞいのブラゴヴェシチェンスクで日本人の「からゆきさん」に会ったのはピエール・ロティの『Madame Chrysanthème (お菊夫人)』の影響だと言いたいのォ〜?
その通りですよ。 チェーホフは1890年の4月から12月にかけて当時流刑地として使用されていたサハリン島へ「突然」でかけたのですよ。
どうして。。。?
あのねぇ〜、ピエール・ロティの『Madame Chrysanthème (お菊夫人)』が出版されたのは1887年なのですよ。
つまり、チェーホフは『Madame Chrysanthème (お菊夫人)』を読んで、それでサハリン(樺太)への長途の旅の帰り道にアムール河ぞいのブラゴヴェシチェンスクに立ち寄り日本人の「からゆきさん」に会ったと。。。?
その通りですよ。 『Madame Chrysanthème (お菊夫人)』には、それほどの影響力があったということですよ。
【ジューンの独り言】
ですってぇ〜。。。
ピエール・ロティの小説『Madame Chrysanthème (お菊夫人)』が、チェーホフにサハリンへの長旅に駆り立てる“公表できない動機”を与えたのでしょうか?
そのよなことは聞いたことがありませんわ。
でも、可能性としてはありそうですよねぇ。
プッチーニも日本へ行ったことはありません。
それにもかかわらずオペラ『蝶々夫人 (Madame Butterfly)』を作ってしまったのですから。。。
その内、チェーホフに関しても動かぬ証拠が出てくるかもしれませんわ。
ところで、シルヴィーさんの事をもっと知りたかったら次の記事を読んでくださいね。
■『ムカつく検査(2011年11月1日)』
■『アッシジからの平和(2011年11月5日)』
■『中国からの怪電話(2011年11月9日)』
■『気になる英単語(2011年11月18日)』
■『戦争を知らないの?(2011年11月23日)』
■『熟女ヌードとデンマン(2011年11月29日)』
■『山形とバンクーバー(2011年12月8日)』
■『ねえ、ねえ、ねえ見て(2011年12月10日)』
■『URL スパマー(2011年12月20日)』
■『坂の上の平和(2012年1月4日)』
■『平和と武士道(2012年1月10日)』
■『スカートをはいた兵隊(2012年1月15日)』
■『レモン戦争(2012年1月16日)』
■『常連さん、こんにちは(2012年1月23日)』
■『チョコレートと軍産複合体(2012年1月28日)』
■『壁に耳あり障子に目あり(2012年2月3日)』
■『チョコレートと世界銀行(2012年2月10日)』
■『チョコレートと甘い権力(2012年2月22日)』
■『CIAの黒い糸(2012年3月6日)』
■『CIAの黒い手(2012年3月12日)』
■『平和が一番(2012年3月29日)』
■『オツムの中の英語(2012年4月17日)』
■『誰?あなたなの?(2012年5月5日)』
■『ジャンボのエンジンが全部停止!』
(2012年5月15日)
■『日本の良心は停止したの?』
(2012年5月17日)
■『愚かな詭弁を弄する東電』
(2012年8月16日)
■『僕のお父さんは東電社員』
(2012年8月20日)
■『小学生でも知っている国のウソ』
(2012年8月25日)
■『ん?オバマ大統領暗殺?』
(2012年9月3日)
■『なぜ戦争するの?(2012年9月15日)』
■『なぜ原発作ったの?(2012年9月19日)』
■『国際感覚ダントツ(2012年11月11日)』
■『国際化できてる?(2012年11月19日)』
■『国際化とアクセスアップ(2012年11月23日)』
■『国際化とツイッターと国際語(2012年11月27日)』
■『お百度参りも国際化(2012年12月1日)』
■『期待される人間像(2012年12月13日)』
■『角さんと原発と天罰(2013年1月5日)』
■『真紀子落選(2013年1月14日)』
■『野火(2013年1月18日)』
■『タイタニックと国際化(2013年2月1日)』
■『宮澤理恵@Macao(2013年2月28日)』
とにかく、今日も一日楽しく愉快に
ネットサーフィンしましょう。
じゃあね。バーィ。
ィ〜ハァ〜♪〜!
メチャ面白い、
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