寅さんの本棚 (PART 2 OF 3)
本を買い集めるのに借金が数億円というのは すさまじいものでござ〜ますわねぇ〜。。。 あたくしも 古書を買うために お金持ちのパトロンが欲しいくらいでござ〜ますわァ。
実は、愛人に少し稼いでもらうというのは、人間の“愛人”じゃなくて「革装丁の本」のことなのですよ。
どういうことですか?
あのねぇ〜、「革装丁の本」ばかり並べておけば、重厚な書斎イメージが欲しい人にスペースをレンタルできるのではないかということで、そうやって収入を得ようと考えたのですよ。
つまり、書斎スタジオでござ〜ますかァ?
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そういうことです。 こうして「革装丁の本」を並べて、重厚な書斎スタジオを写真家や会談用にレンタルすることを考えたと言うわけですよ。
ところで、寅さんが出てくると さっきデンマンさんは おっしゃいましたけれど、それはどのようなお話なのでござ〜ますかァ?
あのねぇ〜、僕が本の詰まった2つのボストンバックを仙台に運んだときの事ですよ。 昭和50(1975)年頃でした。 まだ東北新幹線ができる前ですよ。
今の行田市駅から熊谷駅に行き、そこで高崎線に乗り換えて大宮駅まで行き、今度は、ここで東北本線の急行「松島」に乗って仙台まで行ったのです。
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“急行”といっても、今から思えば ノロノロと走るボロ電車でしたよ。
それで、どういう事が起こったのでござ〜ますか?
4人がけの椅子の一つに座りながら退屈しのぎに、気に入った本を取り出して読み始めたのですよ。 春先とはいえ、夏のような日差しで 汗ばむほどでした。 だから、車窓は全開でした。 僕は進行方向に背を向けて窓際に座っていました。 僕の隣は60代のおばあさんで、僕のすぐ前に座っているのは上品な50代の夫人。 その隣に、その夫人の亭主と思われる人が座っていた。
それで。。。?
郡山駅を過ぎた頃でした。 郡山駅で名物の“小原庄助べんとう”を買うつもりだったのだけれど、どういうわけか買う気が起こらなかった。
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あらっ。。。おいしそうではござ〜♪〜ませんか! あたくしは食べたくなってしまいましたわァ。 どうして郡山駅で買わなかったのですかァ〜?
あのねぇ〜、僕は これまでに何度も死ぬような経験をしている。 生きてこれたのは、第六感が働くからなのですよ。 後で考えたら、この時にも第六感が働いたのです。
あらっ。。。 この後に脱線事故で乗客の幾人かが死ぬのでござ〜ますかァ?
いや。。。 それ程悲惨な事故に出遭ったのではないのだけれど、一生に一度 出遭うかどうか?というような酷(ひど)い出来事が起こったのですよう。
デンマンさん! 焦(じ)らさないで細木数子・女史のようにズバリ!と言ってくださいましなァ。
あのねぇ〜、僕は夢中になって本を読んでいた。。。 そしたら、なんか冷たいものが頬にかかったと思った。
冷たいものってぇ〜。。。?
だから、車窓の外から霧吹きで霧を吹きかけられたような感じですよ。 でも、妙に臭いのですよ。
あらっ。。。 セミが通りがかりに車窓の外でオシッコしたのではありませんかァ〜?
あのねぇ〜。。。 物好きなセミでない限り、急行電車と競争するように並んで飛びませんよう。 セミのオシッコではありませんでした。
。。。で、本の題名は。。。?
確か三島由紀夫の『金閣寺』だった。
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あらっ。。。 読んでいた本の題名まで はっきりと覚えているのでござ〜ますか?
そうですよう。。。 なぜなら第六感と関係があるからですよ。
どのような関係があるのですかァ?
あのねぇ〜。。。 今、食事をしながら この記事を読んでいる人は、この先からは食事をした後で読んでくださいね。 ここで、ひとまず、このページの どれでもいいから、リンクをクリックして他の記事を読んでください。 食べ終わってから、この記事に戻ってくださいねぇ〜。。。
どうしてでござ〜ますか?
せっかく うまいと思って食べた物を吐いてしまうからですよ。
分かりましたわァ。 あたくしは何も食べてませんので細木数子のようにズバリ!と話してけっこうでござ〜ますわよう。。。。で、『金閣寺』が第六感と どのように関係しているのでござ〜ますかァ?
金閣寺と“キンカクシ”ですよ。
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あのねぇ〜、当時の急行「松島」のトイレは、ちょうどこの上のようなものだったのですよ。
あらっ。。。 垂れ流しなのでござ〜ますかァ?
その通りですよう。。。 まさか垂れ流しだとは思わなかったから、僕だって さっきの「霧」が「オシッコ」だとは思わなかった。
つまり、乗客の誰かが車内のトイレでオシッコしたものが風に吹き飛ばされて車窓からデンマンさんの頬に吹きかかったのでござ〜ますかァ?
そうなのですよ。。。 でも、それだけではすまなかった。 僕が夢中で読んでいた『金閣寺』のページに茶色い小さなシミがポタッと付いた。 やっぱり、僕の第六感は正しかったのですよ。 僕は、止せばいいのに、どうしても第六感を確かめねばならないと思ったので、人差し指でその小さな茶色のシミを指先でこすって、自分の鼻先に持っていった。
あらっ。。。 もしかして。。。、もしかして。。。、それは。。。?
そうなのですよ。 ウンコの飛沫(ひまつ)なのですよう。 あのねぇ〜。。。 普通、硬いウンコならば、そのまま線路に落ちて飛沫になって飛ばないのですよ。
。。。つうことわあああァ〜。。。 そのウンコをした人は下痢をしていたのでござ〜ますかア?
そうとしか考えられない!
つまり、デンマンさんは、その下痢の飛沫を頬に浴びてしまったのでご〜ざますか?
あのねぇ〜、僕はまだいい方なのですよう。。。 なぜなら、僕は進行方向に背を向けていたからですよ。。。 可哀想なのは、僕の前に座っていた50歳ぐらいの上品な女性ですよ。 白いハンカチを出して額の汗でも拭くように涼しい顔をしながら、下痢の飛沫を拭(ぬぐ)っているのですよう。
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顔じゅう下痢の飛沫を浴びてしまったのですから。。。
あああらァ〜。。。
でもねぇ〜、今から思えば、日本人の気質だと思うのだけれど、そのような惨(むご)い事になっても、誰もウンコの事などオクビにも出さないで、僕を含めて済ました表情を浮かべて 何もなかったように黙って座っていたのですよ。 つまり、お互いの気持ちをそれ以上傷つけないためですよう。 日本人の奥ゆかしさですよね。 カナダだったら、大騒ぎになるところでした。
。。。で、寅さんは。。。?
だから、もし寅さんが僕の席に座っていたら、その上品な女性に向かって次のように言っていたと思うのですよ。
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結構毛だらけ猫灰だらけ
お口の周りは糞だらけ
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(すぐ下のページへ続く)