菊ちゃん、知恵伊豆、忠秋(PART 2 OF 3)
家光は猟が好きだった。
よく鳥や獣を捕まえた。
そして、獲物をみんなで食べるのが楽しみだった。
ある日、江戸城の近くの鎌倉河岸の堀にカモがたくさん群れていた。
これを見た家光は家臣たちに「カモを捕まえろ」と言った。
平川門からお堀の方向、ここは昔は海でした。
ここから日本橋川に沿って神田橋まで歩けた。
今は首都高速に塞がれて目立ちませんが、江戸時代には海運の重要な河川でした。
鎌倉河岸の地名に名残が残っています。
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ところが、銃がないので、家来がまごまごしていると、家光は「石で打て!」と言った。
しかし、道はよく清掃されていて石もない。
困った家臣たちは、そばにいた忠秋と信綱を見た。
忠秋はぶすっとしたまま知らん顔をしていた。
信綱は突然、道路わきの一軒の魚屋を指差し、「あの店先にハマグリがある。あれを石の代わりにしろ」と叫んだ。
家臣たちは走り出し、魚屋から手に手にハマグリを掴んで堀に投げ始めた。
魚屋の主人は呆気に取られて、見守っていた。
カモがたくさん捕れ、家光も家臣もワイワイ言いながら行ってしまった。
忠秋だけが残った。
信綱が振り返って聞いた。
「阿部殿、どうされた?」
「いや。。。 なんでもありません。 どうぞお先に。。。」
全員が立ち去ると、忠秋は魚屋に入った。
そして、店主に向かって言った。
「すまなかったな、ハマグリの代金を払う。 いくらだ?」
店主は驚いて、忠秋をみつめた。
「とんでもない! 将軍様のお役に立っただけで光栄でございます!代金は要りません」
「そうはいかない。 お前たちの商売ものを石の代わりにしたのだ。 払わせてくれ」
そして、きちんと金を払った。
このことは城に戻っても、一切誰にも言わなかった。
城に戻ると、カモ汁で大宴会だった。
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酔った家光が小姓の一人に、「お前、櫓から飛んでみろ」と言った。
小姓は真っ青になった。
高い櫓から飛び降りれば死んでしまう。
助けを求めるように辺りを見回した。
ところが、みんな目を合わせるのを避けた。
「早く飛び降りろ!」家光はいら立つ。
この時 忠秋がふいと立ち上がった。
そして、廊下に出ると納戸から傘を一本出してきて 小姓に突き出した。
「おい、これをさして飛び降りろ」
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座はどっと笑い出し、家光も苦笑した。
そして「もうよい」と手を振った。
忠秋のとっさの機転は 家光にとっては痛烈な戒めだった。
忠秋は庶民の食べるハマグリを石の代わりに使って、その代金も払わずにさっさと帰ってしまう驕り高ぶった家光の神経に、無言で一撃を加えたのだった。
更に、臣下の命を座興の一つにするなどとは、とんでもないことだ、と忠秋は腹の中で思っていた。
家光の気持ちを荒立てないようにしながら 諭(さと)したのだった。
どうですか、小百合さん。。。?
なるほどォ~。。。 知恵伊豆の信綱さんは徳川家のため、将軍家光のためでなかれば、できるだけ関わらずに知らん顔をしているのですわね。
上のエピソードを読む限り、誰もが そういう印象を受けると思うのですよ。
それで、知恵伊豆の信綱さんと菊ちゃんの関係は。。。?
だから、菊ちゃんの“ひいおばあちゃん”の、そのまた“ひいおばあちゃん”にあたる、忠秋さんに拾われて育ち、女中をしていた“お菊さん”のことですよ。
そう言えば、そのお菊さんが忠秋さんの部屋の行灯(あんどん)に火をともしに行った時に、大嫌いなネズミが目の前を横切ったので、ろうそくの火を落としてしまったのですわねぇ~。
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そうなのですよ。。。 その火が あの“振袖火事”と呼ばれた“明暦の大火”の火元になったのです。
それで、忠秋さんは、どのように対処したのですか?
当時、忠秋さんは老中。。。、松平信綱さんは老中首座だった。。。 今で言えば、さしずめ江戸政府の首相と副首相のような立場にあった。
忠秋さんも、ホトホト困ってしまったでしょうね。
そうです。。。 二人の間には次のような会話が交わされたのですよ。
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拙者が全責任を負って腹を切り、土地・家屋、所領は幕府に返上いたします。 なにとぞ他の者には罪が及ばないようにしていただきたい。 この件については、左様に御承知していただけると、幸いに存じます。
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いや。。。それはならぬ。
。。。とおっしゃいますと、拙者の家族と縁者、すべての者が処罰されるということでございますか?
いや。。。幕府の老中の屋敷が火元とあっては、阿部殿の家族全員が死罪になったとて済む問題ではござらぬ。
。。。とおっしゃいますと。。。?
阿部殿も御承知のとおり、火事の火元に対しては幕府は厳罰主義で臨んでおります。 それゆえ幕府の老中が火元とあっては、幕府の権威は失墜してしまいます。 先年の“島原の乱”で、幕府の権威はいささか揺るいでしまいました。 今度の江戸の大火事の火元が老中の屋敷とあっては、更に反乱を誘うようなものでござる。
では、一体どうすればよろしいのでしょうか?
拙者に名案があります。。。 確か、阿部殿の屋敷の隣は本妙寺でしたな。。。
左様で。。。
それでは火元は本妙寺といたそう。
しかし、本妙寺の住職が承知いたしますまい。
ご案じなさるな。。。 幕府の方からもいろいろと手を尽くして説得に当たろう。。。 ついては、阿部殿からも、毎年供養料として相当額の寄付をしていただきたい。
金銭で済むものでしたら、住職の納得する額を毎年供養料として差し出す所存です。。。 しかし、どのような原因で火が出たとするのでございますか?
それについても名案があります。 次のような話を拙者の家臣に命じて江戸中に広めるつもりでござる。
江戸の町の一人の少女(17歳)が、偶然見かけた美少年に一目惚れ。
寝ても覚めてもその美少年のことが忘れられず、彼が着ていた服と同じ模様の振袖を作らせた。
その振袖を抱いては、彼のことを思う日々でしたが、恋の病からか、はかなく死んでしまった。
両親は憐れんで娘の棺にその振袖を着せてやった。
棺が持ち込まれた寺で働く男たちが その振袖をもらい受けた。
振袖は男たちによって売られ、別の17歳の娘の物になった。
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ところがこの娘も、しばらくの後に亡くなり、振袖はまた棺にかけられて寺に持ち込まれた。
寺の男たちもびっくりしました。
しかし、そんなこともあるだろうと、またそれを売り、振袖はこれまた17歳の娘の手に渡った。
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ところが、この娘もほどなく死んでしまい、振袖は またまた棺に掛けられて寺に運び込まれた。
ここに至って さすがに寺の男たちも気味悪がり、住職に相談。
死んだ娘たちの親も呼ばれて、この振袖を寺で供養することになった。
住職が読経しながら火中に振袖を投じる。
ところが、折しも強い風が吹き、振袖は火がついたまま空に舞い上がり、本堂の屋根に落ちた。
火は屋根に燃え移り、消し止める間もなく次々と延焼、翌日には、江戸城本丸天守閣まで類焼した。
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どうですかな、阿部殿。。。 庶民が飛びつくような話だとは思わぬか?
確かに。。。 さすがに“知恵伊豆”と呼ばれるだけあって、松平殿は戯作にも通じておるのですな。 (笑)
とにかく、これ以上幕府の権威を落としたくないのじゃ。。。 そう言う訳で、この一件は拙者に任してくだされ。
“知恵伊豆”の信綱さんは、何が何でも幕府の権威にこだわった。 それに対して忠秋さんは“お菊さん”を死罪にするには忍びなかったので、自分が腹を切って身代わりになろうとした。
そういうことですよ。。。 二人の性格が良く表れているとは思いませんか?
でも。。。、でも。。。、これは史実なのですか?
もし、上のエピソードが史実でなかったら、菊ちゃんは存在しなかったということですよ。 菊ちゃんが存在したということが、何よりの証拠じゃありませんか!
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【卑弥子の独り言】
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ですってぇ~。。。
あなたは、このデンマンさんのお話を信じることができますかァ~?
“信じる者は救われる”と申しますが、あなたは、どう思いますか?
実は、デンマンさんが“お菊さん”の子孫である菊ちゃんにエロい事をしようとしたのですわよゥ。
どこかに、その記事があるだろうと思って探してみたら、見つかったのでござ~♪~ますう。
うふふふふふふ。。。
あなたも、もし関心があったら読んでみてくださいまし。
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■『菊ちゃんと八ツ橋』
ところで、どうして小百合さんが「軽井沢タリアセン夫人」と呼ばれるのか?
ご存知でござ~♪~ますか?
実は簡単な事なのですわよう。
小百合さんは軽井沢に別荘を持ったのですわ。
小さな頃から軽井沢に住むことが夢だったのですってぇ~。。。
分からない事ではござ~ませんわ。
そもそも小百合さんが軽井沢に興味を持ったのは、朝吹登水子のエッセーなどを読んだことがきっかけだったとか。。。
現在、朝吹登水子の山荘、睡鳩荘(すいきゅうそう)は軽井沢タリアセンに移築されて公開されています。
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それで、小百合さんは軽井沢タリアセンを訪れては睡鳩荘に足を運んで少女の頃の事を思い出すのが楽しみなんですってよ。
そういう訳で、デンマンさんが小百合さんのことを「軽井沢タリアセン夫人」と呼ぶようになったのですわ。
軽井沢・雲場池の紅葉
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軽井沢のイルミネーション
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秋の旧軽井沢銀座ぶらり散歩
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とにかく、明日もデンマンさんが興味深い記事を書くと思いますわ。
だから、あなたも、お暇なら、また読みに戻ってきてくださいまし。
じゃあねぇ~~。
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