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悔恨の気おくれ (PART 3 OF 4)

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悔恨の気おくれ (PART 3 OF 4)





あらっ。。。。この上の写真は左が原節子さんで右が、その娘役の司葉子さんですわね?



あれっ。。。小百合さんは良くわかりましたね?

確か、この映画を見た覚えがありますわ。 。。。で、そのお母さんという人は、この写真の原節子さんのようなイメージの人だったのですか?

そうなのですよ。 ちょっと近寄りがたいような上品な人だったのです。

。。。で、その夫人が脇玄関の前で何か迷っていたのですか?

あのねぇ〜、当時は月に1回ぐらいの割合で廊下に油を塗る習慣があった。 その日はその掃除のあった翌日なのですよ。 だから、廊下は油でギタギタ光り輝いていて、スリッパを履かずに歩いたら白足袋は、ぐっしょり油を吸い込んで、その後、洗濯しても使い物にならないほど油で汚れてしまうのですよ。

。。。で、そのお母さんは、なぜ迷っていたのですか?

脇玄関にはスリッパがない。 そこは学生用の玄関ですよ。 正面玄関に行けば来客用のスリッパがあるのですよ。

その上品な夫人は、なぜ正面玄関へ行かなかったのですか?

あのねぇ〜、小百合さんにも経験があると思うけれど、学校の正面玄関というのは生徒にとって入りにくいのですよ。 そのような習慣が身についているから、そのお母さんにとっても正面玄関は入りにくい。

つまり、その夫人はスリッパか何かを探しているような風情だったのですか?

そうなのですよ。 そのお母さんが正面玄関に行かない理由が僕にもなんとなく分かった。 だから、この場合、僕が正面玄関へ行ってスリッパを取ってきて、そのお母さんに差し出すべきだと思ったのですよ。

そうすれば良かったではありませんか?

ところが、その夫人のいでたちは僕にとってまぶしいような、とっても上品過ぎて、近寄りがたいオーラが滲み出ているのですよ。。。あたかも、そこに原節子さんが立っているような、そのような眩(まぶ)しさを感じたものです。

それで、デンマンさんはどうなさったのですか?

僕は、思い切ってお母さんのところに走って行って、「スリッパを正面玄関からとってきますから、ここでお待ちください」と言おうと思いましたよ。

それで、デンマンさんは、そのようになさったのですか?

ところが、その勇気かでない。 どうしようか。。。? どうしようか。。。? 授業時間は刻々と迫っている。。。 思い切ってその夫人のところに走ってゆこうか。。。? 

走ってゆけばいいではありませんか!

そうなのですよ。 そうすべきだったのですよ! ところが、迷っているうちに、そのお母さんは思いを決めたように草履(ぞうり)を脱いで白足袋のまま廊下を職員室の方へ歩いていったのですよ。 あああ〜〜〜。。。廊下に塗られた、あの汚い油のことを想うと、僕の胃袋は締め付けられたような痛みを感じましたよ。 「ああ〜〜、どうして勇気を出して、あのお母さんのところに走って行けなかったのだろうか!?」 僕は授業を受けながらも、先生の声は一向に耳に入ってこない。 後悔の念だけが僕の胸を締め付けたのですよ。。。そう言う訳で、未だにその事を、高校時代の事を思い出す時に、ふいに思い出すことがあるのですよ。

どうして走って夫人の所に行けなかったのですか?

だから、それが「悔恨の気おくれ」なのですよ。。。。で、たまたま本を読んでいたら同じような状況に出くわした人の文章に出くわしました。


志集



2008年12月のある晩、東京にある別のターミナル駅前で中年女性を見かけたのだが、慌しい人ごみの中、女性は歩道橋下の柱の前に静かに立ち、「私の志集を買ってください」と書いた、汚れた広告板を手にして、詩集を1冊300円で売っていた。

彼女を見てびっくりしたのは、東京でも路上で詩集を売る人が珍しいからではない。 四半世紀前に、私がその駅を使って日本語学校に通っていた時に、同じ女性が同じ広告板を持って同じ落ち着いた顔つきで詩集を売っていたからである。 当時、彼女の詩集を何回も買おうと思ったが、勇気は出なかった。

しかし、年をとるメリットの一つは、知らない人に話しかけようとすると怖じ気づく気持ちが減っていくことである。 今回は躊躇なく彼女の「志集」を買った。 謄写版のような簡易印刷で刷られ、手作業によりホッチキスで止めたようなその小冊子は、もう第40号に達していた。

その晩は帰りの電車で、また次の日以降は大学の研究室で何回も詩集を読み返して、その詩人のことを思い返した。 この25年間、その駅の周辺は再開発と再々開発ですっかり様子が変わったのに、彼女がそこで自分の言葉を都会人に提供し続けていることは感慨無量である。

(注: 写真はデンマン・ライブラリーより
赤字はデンマンが強調)



150ページ 『英語のあや』
著者: トム・ガリー(Tom Gally)
2010年10月25日 初版発行
発行所: 株式会社 研究社

『共感脳の話(2011年6月3日)』に掲載




そうなのですよ。 現在の僕ならば、ガリーさんが「志集」を買ったように、迷わずに、あの上品な夫人のところへ歩み寄って、「お待ちください、スリッパを持ってきてあげますから。。。」と言えるのですよ。



そうでしょうか? 。。。その根拠でもありますの?

ありますよ。 思い立った事をその場ですぐに実行できなくて悔やんだ僕は、2度と、そのような後悔をしてはならないと、その後は心に決めたことは実行するようになったのですよ。 それで一度も口をきいたこともない恵美子さんに僕のピアノの演奏を聞いてもらったのですよ。



『ん? クラシック興味ある?』

(2006年6月13日)



上の記事が、その時のエピソードですか?



そうなのですよ。 (微笑)


【卑弥子の独り言】



ですってぇ〜。。。
それにしても、脇玄関前の上品な夫人と恵美子さんのことは、あまり関連性がないと思うのでござ〜♪〜ます。
あなたは、どう思いましたか?

とにかく、次回も興味深い話題が続くと思います。
あなたも、また戻ってきてくださいましね。
じゃあねぇ。 うふふふふふ。。。






ィ〜ハァ〜♪〜!

メチャ面白い、

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 (すぐ下のページへ続く)


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