畳の上の水練(PART 2 OF 4)
デンマンさん。。。オイラをお呼びですか?
おおォ〜。。。マンガ家! 首を長くして待っていたんだよォ。
今日はデンマンさんがオイラに泳ぎ方を教えてくれるんですか?
いや。。。オマエの本を読んでね。 僕が気づいたのはオマエは半年以上海外で暮らしたことがない!
あれっ。。。そんな事が分かってしまうんですか?
ズボシ!だろう?
良く分かりましたねぇ。 確かに、オイラはこれまでに半年以上海外で暮らしたことがないのですよ。 どうして分かったのですか?
簡単なことだよ! オマエは観念的に本を書いている。 要するに理屈を捏ね回しているだけなんだよ。
半年以上海外生活すると具体的に考えるようになって、理屈を捏ね回さないのですか?
あのなァ、例えば、海外で3年間暮らすとする。 当然、雑誌の記事だとか小説だとか、あるいは教科書を読む。 本の内容にもよるけれど、欧米の本は。。。、特に北米で出版された本は、具体的に、イラストや図表やグラフを挿入したり、体験談やエピソードなどをたくさん盛り込んで実に分かり易く書いてある。
でも、オイラの本は漫画だけで分かり易いですよ。
確かにそうだよ。 だから、オマエの『戦争論』漫画は65万部売れたのだよ。 マンガにハマっている若者や中年が、日本の言論人・知識人が書いた観念論的な本よりも“見て”分かり易いから売れたのだよ。
つまり、オイラの本は分かり易いとデンマンさんは言うのですね?
まあ。。。そうだよ。 マンガは活字離れしている奴でも眺めることができるからね。
なんだか漫画家を馬鹿にしているような言い方ですね?
いや。。。事実を言ってるまでだよ。
それなのに、オイラが観念的な本を書いているとデンマンさんは言うのですか?
僕はオマエが書いた『「個と公」論』のことを言ってるんだよ。 この本にはマンガは一コマも無い。
その通りです。 実験的に書いたのですから。。。
実験の結果は良くなかったろう!? 売れてないだろう?
『戦争論』漫画と比べるとイマイチでした。
そうだろう! 観念的で理屈を捏ね回していて面白くないんだよ!
でも、日本の言論人や知識人が書いている本より売れてますよ。
うん、うん、うん。。。そうかもしれない。 オマエが指摘しているように日本の言論人・知識人が書いている本は売れても5万部。 たいてい1万部も売れればいい方だよ。
だけど、オイラのマンガは売れてますよ。
あのなァ、オマエのマンガ本が売れてるのは、オマエの実力じゃない!
オイラの実力じゃないと言うならば、何で売れてるのですか?
現在、日本が世界に誇れる文化と言えば、残念ながらアニメ・マンガ文化がダントツなんだよ。 日本の言論人・知識人が書いた本など世界的に見たら屁のツッパリにもならない。ほとんどが無視されている。
なるほど。。。
何がなるほどなんだい?
デンマンさんがオイラの本をバンクーバー図書館で読んだという理由が分かりましたよ。
マジで分かったの?
分かりましたよ。 つまり、現在、海外に輸出されている文化はアニメ・マンガ文化と言う事ですよ。 それで、オイラの本もカナダに輸出されている。 そういうことでしょう?
いや。。。そうではない! オマエの本は日本から輸出されたわけじゃない。 たまたまオマエの本にハマッている人間がカナダの駐在員になったか、留学生になってバンクーバーで数年を過ごしたのだよ。 本がまとまると結構重いので、まとめて送るとなると金がかかる。 それで日本に帰る前にバンクーバー図書館に寄贈したのだよ。
要するに、デンマンさんはオイラの本を買って読んだのではなく、誰かがバンクーバー図書館に残していったものを手にとって読んだのですか?
そうだよ。 オマエの本はわざわざ取り寄せて読むほど価値があるとは思わなかったからね。
デンマンさんは、そうやってオイラを侮辱するのですか?
いや。。。僕は漫画家としてのオマエを尊敬しているよ。
マジで。。。?
真面目だよ。
それなのにオイラの本がどうして観念的だ!なんて言うのですか?
あのなァ、『戦争論』はマンガだから、マンガやアニメにハマッている若者や中年にとって読み易い。 ところが『「個と公」論』にはマンガが一コマも無い。 オマエは本の中で次のように書いている。
本書では知識人の虚言を容赦なく暴き尽くすことによって、真の「個人主義」とは何であるかが読者に見えてくるという試みに挑戦した。 知識人の発言は世論を左右する可能性があるにもかかわらず、大方において彼ら自身が人格的に「私」と「公」のバランスが崩れている場合が多く、「私」(=自己愛)を守るために平然とウソの知識を「公」に発してしまう。 ぜひ知識人の社会的責任を自覚していただきたく、間違いを笑いとともに指摘した次第だ。 知識人にとっては煩わしいことだろうが、ウソをを見抜ける常識人は居るということだ。
十全に言葉を尽くして論破し説明するために、本書では「漫画」の手法を一切封じた。 「漫画」でわかりやすいからずるいとか、「似顔絵」を描くからイメージ操作だとか、甘えた批判の余地を除去して見せるのも面白いたくらみだろう。
(注: 赤字はデンマンが強調)
401 - 402ページ 『「個と公」論』
著者: 小林よしのり
2000年5月10日 第2刷発行
発行所: 株式会社 幻冬舎
マンガが一コマも無いためにオマエは観念論に始終している。 その書き方は他の日本人の言論人・知識人と同じ穴の狢(むじな)なんだよ。 つまり、オマエには欧米で暮らした経験が無いということが本にはっきりと表れている。
それ程分かるものですか?
分かってしまう。 オマエは次のようにも書いていた。
「体験ゼッタイ」の絶対無意味(序論)
「小林は戦争を知らない」というのは要するに自分の体験がゼッタイだ、という主張ですが、野坂(昭如)氏と同じ昭和ヒトケタ世代で、「体験ゼッタイ主義」の極北ともいえる小田実氏(昭和7年生まれ)も、「小林よしのりは戦争の実体を知らない」と発言しています。
(中略)
わしだってサイパンに行って現場も見たし現地の人の話も聞いたよ。 小田実が「戦場に行った」って言っても、土地に行っただけでしょう? かつて戦争があった、戦場跡を見たってだけでしかないからねえ。
あまりにも「体験主義」を絶対化させるとオウムの信者と同じになるんだよな。
あいつらは瞑想修行をやって、その果てに「神を見た!」「仏を見た!」「地獄を見た!」「神秘体験だ!」と言い始めるからね。
で、「体験してないからおまえたちにはわからないんだ、自分たちは修行して体験したんだ!」って言う。
「法の華」も言うよね、「頭を取らないからわからないんだ、マスコミの連中は」とかって。
あれは「修行体験をしてない」ってことだからね。
体験ゼッタイ主義なんてのも、根拠があることでも、立派なことでも何でもないんよ。
(注: 赤字はデンマンが強調)
87 - 89ページ 『「個と公」論』
著者: 小林よしのり
2000年5月10日 第2刷発行
発行所: 株式会社 幻冬舎
もしオマエが欧米で半年以上暮らした経験があれば上のような文章を書かない。
その根拠は。。。?
オマエはテニスをやったことがある?
何で急にテニスのことなど持ち出すのですか?
あのあァ、分かり易い例え話だよ。 僕は決してテニスの腕がプロ級ではないけれど、テニスは通産で20年ぐらいやっている。 だからフォアスウィング、バックスウィング、サーブの素振りを見れば、そのプレーヤーが初心者か? 僕のような中級者か? それともプロ級の者か? 5分間素振りをやっているのを見ればまず見当がつく!
マジで。。。?
オマエはゴルフはやるの?
いや。。。オイラのような売れっ子の漫画家になるとゴルフなどやってる暇がないっすよ。 うししししし。。。
そうだろなァ〜。。。テニスもゴルフもオマエにはあまり縁が無いようだね。 たぶん人生経験も乏しいのだと思うよ。
そんなことまでデンマンさんには分かるのですか?
だってぇ、上の文章のサブタイトルを見れば分かるじゃないか! 体験や経験をオマエが軽視しているのが実に良く分かる! しかも、オマエが書いた『「個と公」論』の中にはオマエの個人的なエピソードは何一つ書かれてない! だから、イマイチ説得力が無い! 理屈を捏ね回しているだけじゃないか!
個人的なエピソードを本に盛り込まないといけないのですか?
あのなァ〜、北米で出版された本を読むと日本の本よりも面白く分かり易い。 とにかく、こうして観念的な話をしてもオマエには理解できないだろうから、ここに具体例を書くよ。 ちょっと読んでみろよ
(すぐ下のページへ続く)