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愚か者と敬語 (PART 1)

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愚か者と敬語 (PART 1)











デンマンさん。。。どうして「愚か者と敬語」なのでござ〜♪〜ますか?



あのねぇ〜、たまたま本を読んでいたら次の箇所にぶつかったのですよ。


「お気づきでしょうが、バーバラはビデオを使ってインタービューをしませんでした。
また家族に“今のお気持ちは?”とも聞かなかった。
私たちABC放送の記者たちは、数年前に話し合って、こうしたときに不幸な人たちにマイクを突きつけるのはやめようと申し合わせたのです。
“今のお気持ちは?”なんてバカな(dumbest)質問をするのは」


(dumbest202.jpg)

私はこの放送を聞いたとき、全身が羞恥で熱くなったのを覚えている。
日本のテレビ局のレポーターたちは、まるでインタービューの方法も作法も忘れてしまったように、誰に向かっても
「いま、どんなお気持ちですか」
。。。
「落選しましたが、今のお気持ちをきかせて下さい」と、相手が答えようもない質問を浴びせてしまう。
子供が殺されたり、家を焼かれた被害者にも
「いま、どんなお気持ちですか」なのである。
 。。。
私事で恐縮だが、私は放送番組向上委員会の委員を累計で16年も勤めている。
その経験から言うと、「報道記者のインタービューには節度が望ましい」という議論を何回重ねたかわからないし、被害者の家族にマイクをつきつけること、“取材”の名においてプライバシーを侵害しないことを各社に通達してきた。
いまでは各社の報道倫理心得にインプットされているはずである。
しかし「えひめ丸」のときも池田小学校のときも、「いま、どんなお気持ちですか」のダムベストな声を聞かされたのである。

(赤字はデンマンが強調。
読み易くするために改行を加えています。
写真はデンマン・ライブラリーより)



28-29ページ
『きれいな敬語 羞(はず)かしい敬語』
著者: 草柳大蔵
2002(平成14)年3月1日 初版第5刷発行
発行所: 株式会社 グラフ社




確かに日本のテレビなどではよく見る光景でござ〜♪〜ますわ。。。んで、デンマンさんも「報道記者のインタービューには節度が望ましい」と言いたいのですか?



もちろん、上の文章で書かれていることは当然な事だと僕は思うのですよ。 実は、上の本のタイトルは『きれいな敬語 羞(はず)かしい敬語』なのですよ。 日本の文化で僕が最も嫌な部分だと思っていることなのですよ。

デンマンさんは敬語を使うのが苦手なのですか?

そうです。。。尊敬してもいない人にどうして敬語を使う必要があるのか? 僕は、いつもそのことが気になっていた。 年齢が上だとか、会社の上司だとか。。。そういう基準だけで敬語を使わねばならない社会が本当にうっとうしく思えるようになった。

それで、デンマンさんは海外で暮らすようになったのですか?

それも大きな理由のひとつのですよ。

アメリカやカナダでは年齢が上だとか、会社の上司だとか。。。そういう基準で敬語を使う必要はないのですか?

全くない。 僕の経験では、100名ぐらいまでの会社ならば、社長も名前(ファーストネーム)で呼びましたよ。 社長さん、とか Mr. President だとか、そういう呼び方じゃなくて 「おはよう、ジム」 と僕が言えば、「おはよう、デンマン」と返事が返ってきましたよ。

社長さんとの会話でもそのようなものなのでござ〜♪〜ますか?

そうですよ。

デンマンさんが副社長だったからでしょう? 

いや、違いますよ。 僕は30歳ぐらいの中途採用平社員でしたよ。 しかも、僕が住んでいた家の隣の5歳のマイクは、向かいに住んでいる70歳のおじいさんをいつでも「ジョン」と呼んでいましたよ。

マジで。。。?

僕も始めてマイクが向かいのおじいさんを「ハーイ、ジョン」と呼んだ時にはビックリしたものですよ。

信じられませんわ。

3年もアメリカやカナダに住んでみれば、日本での敬語の使い方に、いかに余計な神経をすり減らすか! 特に紹介もない初対面の時などに、相手に対してどのように呼んだらいいのか? 「君」なのか「さん」なのか? 僕はざっくばらんに話すほうだけれど、相手がずいぶんと神経を使っているのがよく見て取れましたよ。

つまり、敬語に関する限り北米では気楽だということですか?

その通りですよ。 でもねぇ、上の本の著者の草柳さんは次のように書いていた。 



(keigo03.jpg)

敬語には・尊敬語・丁寧語・謙譲語・美化語・気くばり語の5種類があり、人間関係や生活感情の潤滑剤になっている。
「日本は敬語が多くてわずらわしい」という学者先生や芸術家がいるが、どう致しまして、欧米にだって敬語表現がヤマのようにある。
一例を挙げると、丁寧語の言葉の使いわけは、日本語は7対3だが、アメリカは9対9である(井出祥子・日本女子大文学部教授)。

(赤字はデンマンが強調。
読み易くするために改行を加えています。
イラストはデンマン・ライブラリーより)



19ページ
『きれいな敬語 羞(はず)かしい敬語』
著者: 草柳大蔵
2002(平成14)年3月1日 初版第5刷発行
発行所: 株式会社 グラフ社




僕は人生の半分以上を海外で、主に欧米で暮らしている。 アメリカでも、カナダでも暮らしたことがある。 カナダには20年以上住んでいる。 でもねぇ〜、実感として「日本は敬語が多くてわずらわしい」のですよ。



あたくしもバンクーバーに行ってから、そう感じるようになったのでござ〜♪〜ますわ。

そうでしょう? 可笑しな敬語を使っている卑弥子さんならば、マジでそう実感したでしょう?

そうなのですわよ。 あたくしは京都の女子大学で「日本文化と源氏物語」を講義しているのですけれど、女子学生からも、あたくしの敬語の使い方が可笑しいと言われるのでござ〜♪〜ますわ。

解(わか)りますよ。 卑弥子さんの日本語は源氏物語の影響を受けてかな〜り時代錯誤していますよ。 (微笑)

そうでござ〜♪〜ますでしょうか?

今時、卑弥子さんのように源氏物語の時代を感じさせてくれる女性なんて日本でも化石的な存在ですよ。

つまり、あたくしは化石のような女なのでござ〜♪〜ますか?

その通りですよ。

。。。んで、デンマンさんは草柳さんに対して反論があるのですか?

もちろんですよ。。。あのねぇ〜、アメリカやカナダに住めば dumb という言葉は日常茶飯事のように、よく耳にする。 自分は使わなくても子供たちが使うから耳に入ってくる。 僕も記事の中で取りあげたことがある。


北米では、頭に来た時など、相手に向かって、上のような言葉(asshole)をよく投げつけます。
また、これと同じぐらいによく使われ言葉に “dumb”というのがあります。

日本語に訳すと「唖の」「口の利けない」「無口の」といった意味ですが、この言葉にも「馬鹿」とか「アホ」と言う意味があります。
北米では、日本と違って、あまり口を利かない人を「アホ」だと考える傾向にあります。
従って、“dumb”が「馬鹿」を意味するようになったわけです。
このdumbは、なんの変哲もない言葉のように見えますが、実際にこれが口を付いて出るところを聞くと “asshole!” と怒鳴るぐらい迫力があります。
これは私が実際経験したことですからはっきりと言えます。

私が印象に残っているエピソードをここで披露しましょう。
カナダのバンクーバーに住んでかれこれ23年になりますが、私の住むすぐ目の前にハイスクールがあります。
ダウンタウンにある学校ですから、日本にある高校と比べると小さな学校です。
つまり大きな土地を取れないわけです。
コミュニティーセンターが隣り合わせにあるので、センターにある図書館へ行くのに小さな校庭を通って行くわけですが、休み時間になると、どっと学生が出てきてタバコなど吸いながらかなりにぎやかにダベっています。



ある時、男子生徒が校舎の出入り口から走って出てきたのです。
からかったのかふざけていたのか、とにかく相手の男子学生を小突いたようで、ちょうど逃げてきたような感じです。
後からすぐに小突かれた生徒が駆け出してきました。
日本語で言うならさしづめ次のような言葉を逃げてゆく生徒に浴びせたことでしょう。
「このバカヤロー!お前みたいな馬鹿とはかかわりたくないね!」
これを50メートル先でも聞こえるぐらいに、大声で叫んだわけです。

英語で何と怒鳴ったかというと、
“You’re SO DUMB!”

この “dumb” というのを辞書で引くと次のように出ています。


dumb

【レベル】4、【発音!】dΛ'm、【@】ダム、
【変化】《形》dumber | dumbest

【名】 ばか者、愚か者、あほ、
間抜け、能なし、脳たりん

【形-1】 頭が悪い、ばかな、あほな、
間抜け{まぬけ}な、常識{じょうしき}のない

・ Do you think I'm dumb? :
私をあほだとでも思ってるの?

【形-2】 (押し)黙っている、あぜんとした、
口のきけない、おしの

・ I was dumb with fear. :
私は恐怖で口がきけなかった。

【副】 愚かしく

【自動】 口をつぐむ

【他動】 〜を沈黙{ちんもく}させる


この単語の元々の意味は「黙っている」という意味です。
このことからも分かるように、北米では「黙っている」ことと「ばか者」とは非常に近い関係があるのです。
日本語では、この関係は見当たりません。
このことに気づいてないと、日本人は非常に誤解されます。
従って、北米で暮らそうと思ったら、黙っているよりも、日本でならば「馬鹿か!」と思われるほどしゃべらないと「あいつは出来る!」と見てもらえません。

もちろん、ただ、わめきたてても駄目ですが、「口は災いの元」と思って黙っているよりは、喋り捲(まく)ったほうが誤解を受けません。



『私版・対訳 慣用句・熟語辞典』より
(Thursday, October 16, 2003)




つまり、dumb という単語は子供時代からよく使う言葉なのですわね?



その通りですよ。 ネットの俗語辞典などにも載っています。


(dumb01.gif)

SOURCE:"Urban Dictionary"



つまり、これほど頻繁に耳にする言葉なのにもかかわらず、草柳さんは耳にしたことがない。 おそらくアメリカやカナダに旅行に出かけたことはあるかもしれないけれど、日本人とだけ話していたのでしょう。 もちろん、北米で暮らした経験はまずないでしょう。 暮らしたとしても3ヶ月程度で、日本人だけと話していたのでしょうね。



でも、どうして、そのようなことがデンマンさんに判るのですか?

実に簡単なことですよ。 草柳さんは次のように書いている。



(ikeda02.jpg)

「えひめ丸」のときも池田小学校のときも、「いま、どんなお気持ちですか」のダムベストな声を聞かされたのである。




「dumbestな声」を北米で暮らしたことのある人ならば、「ダメストな声」と書くものですよ。 「b」は発音しないのですよ。 確かに、英語にも敬語の表現はあります。 でも、日本語の敬語の体系と比べたら、現実の生活では、ほんのわずかしかない。 草柳さんは欧米にだって敬語表現がヤマのようにあると書いているけれど、自信がないから丁寧語の言葉の使いわけは、日本語は7対3だが、アメリカは9対9であると井出祥子・教授の言葉を引用している。 



丁寧語の言葉の使いわけは、アメリカにはないのでござ〜♪〜ますか?

学問的にはあるかもしれないれど、現実の生活で日本人が敬語の使い方を気にするように、丁寧語の言葉の使いわけをアメリカ人が気にしているなんて考えられない。 それはアメリカで暮らしてみれば3ヶ月以内に、どんなに遅くとも3年以内には、はっきりすることですよ。 日本の敬語表現がエベレストぐらい高いヤマに相当するとすれば、アメリカの丁寧語など元横綱の高見山ぐらいの高さですよ。

 (すぐ下のページへ続く)

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