真夜中の甘い電話(PART 1)
「もしもし、オレ」
「うん。 酔うてるのん?」
「うん。 ごめんな。 酔うて電話してごめん」
正直、眠いし、面倒だなと思った。
でも、彼にしてはめずらしい。
彼はあまりお酒を飲みに行かないし、飲んでも早めに家に帰るタイプなのだ。
「どないしたん。 寂しいのん」
「そやねん。 友達と飲んでいたら急に寂しいなって、声が聞きたくなってしもて。 こんなオレ、嫌いか。 嫌いにならんとって」
甘えた調子の彼の声がかわいらしく響いていた。
「嫌いじゃないよ」
「じゃあ、好きか。 好きってゆうて」
「うん、好きや」
「そっかあ。 ほんまか〜。 うれしいわ。 オレ、おまえに出会えてほんまによかったと思ってる」
「うん。 私も」
他人が盗聴していたらとても聞いていられないであろう、そんなやり取りを30分くらいした後に彼が言った。
「今から会いたいなあ」
さすがにそれは無理だろう。
明日は仕事だし……と思って、やんわり断った。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」 ツーツー。
次の日、職場の廊下ですれ違いざまに
「きのうは誰と飲みに行ってたん」と聞くと、彼はきょとんとして言った。
「きのうはどこにも行ってへん。 家でナイター中継見て、寝たで」
え??? じゃあ、きのうの夜中の電話の主は……?
(赤字はデンマンが強調のため。
読み易くするために改行を加えています。
写真・イラストはデンマン・ライブラリーより)
74-75ページ 『嘘みたいな本当の話』
選者: 内田樹・高橋源一郎
2011年8月10日 第3刷発行
発行所: 株式会社イースト・プレス
デンマンさん。。。、あんさんの顔写真とわたしの写真を貼り出したさかいに、上の小話を読みはった人は、あんさんとわたしのことやと思うかもしれへん。
あきまへんかァ〜?
そのように誤解を与えるような事はしてほしくあらへん。
さよかァ。。。
上の話は実話なのォ〜?
ホンマの話やねん。 「嘘みたいな本当の話」を募集して寄稿してもらった中から選者が面白いと思うたものを選んで本にしたのやがなァ。
その本をあんさんはバンクーバーの図書館で見つけやはったん?
そやねん。
(lib20807.gif)
上の赤枠で囲みはったのがその本やのォ〜?
そういうこっちゃ。 もともとアメリカに『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』というもんがあったのやァ。
それはどないなものやねん?
ラジオの番組やねん。 一般のアメリカ人に寄稿してもらった「嘘みたいな本当の話」をポール・オースターというおっちゃんがラジオで朗読したのやがなァ。
それがアメリカでも本になりはったん?
そやねん。 同じ事を日本人が日本でやって本にしたのが『嘘みたいな本当の話』というわけやがなァ。
。。。で、どないなわけで上の小話をあんさんは選びやはったん?
おもろいがなァ〜。。。大阪弁を読みながら、一瞬、めれちゃんが書いたと思うたのやァ。
まさかァ〜。。。そないな事など、わたしはよう書かへんでぇ〜。。。
さよかァ〜。。。それで、めれちゃんのことが思い出されてきよったのやァ。
わたしのこと。。。?
そやねん。。。かつて次のようなことを記事に書いたことがある。 めれちゃんは覚えておるかァ〜?
デンマンさん。。。あんさんは小百合さんとバンクーバーでタンゴしやはるのォ〜?
いや。。。小百合さんはクリスマスにバンクーバーへこれへんのやァ。
そないなら、わたしが行きますわ。
ええっ。。。ギョギョ。。。めれちゃんがバンクーバーへきよるのかァ〜?
へえ。。。ゆかしてもらいますう。
あれっ。。。それは。。。それは。。。あのなァ〜。。。急にそないな事を言われても、わてが困るやないかいなァ。
そやけど、あんさんは小百合さんにも急に言い出したやおまへんかア!
それは。。。それは。。。小百合さんがクリスマスにきよらんことを、わては前もって知っていたさかいになァ。
あんさんは、行田の実家へ帰省したのに小百合さんには会(お)うても、わたしにはおうてくれへんかった。
あのなァ〜。。。小百合さんはベンツに乗って行田まで来てくれるのやァ。 行田から大阪までは遠いのやでぇ〜。。。わては車を持ってへんのやァ。
そいなら、わたしはフェラリに乗って大阪から行田まで飛んでゆきましたがなァ。
あれっ。。。フェラリってぇ飛行機も作っておるのんかァ〜?
じゃっかましい!!。。。あんさんは何が何でもわたしに会いたくないねん。
そないなことがあるかいな。 なんべんも言うように、わては大川(旧淀川)で船渡御(ふなとぎょ)が行われた晩に、めれちゃんと会(お)うたやないかいなァ〜。
天神祭 2011 船渡御
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あんさんは船渡御(ふなとぎょ)を見たことがありますのォ〜?
ありますがなァ〜。。。なにを言うてんねん!。。。わてとめれちゃんと二人して見たやんかァ〜。。。奉納花火があがってぇ、大川に映る篝火や提灯あかりで、ごっつうきれいやったがなァ〜。。。
それっ。。。いつのことォ〜。。。
いつのことってぇ〜、めれちゃんが桜の花びらを散らした花も恥らう16歳のときのことやないかいなァ〜。 めれちゃんは、その時の思い出を短歌に詠んでいたでぇ〜
わたしがァ〜。。。?
そうやがなァ〜。。。もう忘れてしもうたのか?。。。次の短歌を詠んでいたやないかいなァ!
夏祭り
夏祭り
見上げる花火
人ごみの
中でふたりは
固く手つなぎ
by めれんげ
2009.07.25 Saturday 10:01
『即興の詩 夏祭り』より
『夏祭り』に掲載
(2009年7月31日)
あんさんは、何度も何度もこの短歌を持ち出してきよるけど、これは3年も前に詠んだものですやん。 いつまでも昔のことを蒸し返して欲しくないねん。
さよかァ〜。。。
わたしはバンクーバーで、あんさんとタンゴを踊りたいねん。
そやけど、めれちゃんはタンゴが踊れるのかァ〜?
あんさん!。。。何をぬかしてけつかんねん。 あんさんは小百合さんに次のように言うてますやん。
ドナは、ほとんどタンゴを知らなかった。 でもねぇ、タンゴもルンバもジルバも男のリードしだいで女性があまり踊れなくても、なんとか様になるものなのですよ。 数え切れないほどダンスパーティーをこなした僕が経験から言うのだから小百合さんも信じてね。。。
あんさんは、こないに言うてますやん。
そうやなァ。
そうやなァじゃありませんがなァ。。。そやから、わたしはあんさんのリードでタンゴを踊りますねん。
あのなァ〜。。。めれちゃんは小百合さんに拘(こだわ)りすぎてるねん。
そないな事はあらへん。
そやかて、めれちゃんは次のようにボロクソなことをぬかしていたのやでぇ〜。。。
ディスレクシア
オマエは言葉がわからないんだな
ディスレクシアだからな
オマエにもわかるように言ってやる
わたしのすべてと関わるな
わたしにとってオマエの存在を消せ
オマエの頭からわたしを消せ
こっちだっていつまでも
我慢するわけにはいかないんだ
オマエの影がちらつくと
吐き気を催すんだよ
わたしを利用するのはやめろ
どっかのババアをネタにすれば
それで話は片付くんじゃないのか
オマエがこれ以上関わってくるんなら
強制的に排除してやるからな
潔くあきらめちまえ
未練がましいオマエが
心の底から気持ち悪いんだ
by merange (めれんげ)
September 28, 2009 17:08
『極私的詩集 ディスレクシア』より
『仲直りの接吻』に掲載
(2010年1月23日)
めれちゃんはこないにエゲツナイことを言うてたのやでぇ〜。。。この上のババアというのが小百合さんのことやんかァ。
あんさんは、どないな訳で昔の事を蒸し返しやはるのォ〜?
めれちゃんは昔の事と言うけれど、まだ3年前のことやでぇ〜。。。
ネットで3年は一昔だと、あんさんは言いましたやんかァ!
確かにネットで3年は一昔やァ。 そやけどなァ〜、人間関係で3年前はそれほど昔のことではあらへん。
『ロマンと愛とババア』より
(2011年11月4日)
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